第8回 小俣 貴之(日立建機株式会社 ブランド・コミュニケーション本部 広報・IR部 担当部長) | 機動警察パトレイバー 会員制公式ファンサイト「特車二課・分室」

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パトレイバー・フリークトーク

第8回 小俣 貴之(日立建機株式会社 ブランド・コミュニケーション本部 広報・IR部 担当部長)


各界の著名人に、パトレイバー愛を語ってもらう「パトレイバー・フリークトーク」。
第8回では、建築物の解体作業や東日本大震災のガレキ処理作業で稼働した双腕仕様機「ASTACO」シリーズの開発に携わった、日立建機の小俣貴之さんに、技術者から観たパトレイバーの魅力について語ってもらった。



◆重機とロボットを繋いだ『機動警察パトレイバー』

――まずは『機動警察パトレイバー』との出会いについて教えて下さい。

小俣:ちょうど高校生の時に、レンタルビデオショップでVHSを借りたことが『パトレイバー』との出会いでした。私は1974年生まれの、いわゆるガンダム直撃世代です。元々ロボットアニメが好きだったんですが、高校生になって少し毛色の違った作品も見てみたいと思うようになり、その時にたまたま手に取ったのが『機動警察パトレイバー』の初期OVAシリーズだったんです。

――作品の第一印象はいかがでしたか?

小俣:やはり「ロボットも機械であり、産業である」という視点がとても面白かったです。ロボットというのは産業であり、メーカーが存在し、操縦には免許が必要で……非常にリアリティある設定だと思いましたね。というのも、父親がゼネコンに勤めていたこともあって、自宅の棚に油圧ショベルカーのミニチュアなどが並べてあったんです。そしてその油圧ショベルの隣には、前述したように私はガンダム直撃世代なので、ガンプラも並べてあって(笑)。だから「油圧ショベルカーとガンダムがくっついた世界観なんだ」ということが、綺麗に腑に落ちました。それに描かれているのが、遠い未来や宇宙世紀ではなく「大地震をきっかけにレイバーという作業機械が普及した」という点を除けば、当時の日本とほとんど変わらない風景を舞台としていることにも惹かれました。漫画版の第1話で野明が東京の地名に混乱する様にもすごく共感して(笑)。

――レイバーという、メカニックの描写についてはいかがでしたか?

小俣:それまでのロボットアニメに登場するロボット、いわゆるスーパーロボットってあまり壊れないじゃないですか。でもレイバーってすぐに壊れるんですよね。それがとても新鮮でした。格闘戦でボディに傷がついちゃったり、それこそ太田が乱暴な操縦でぶっ壊しちゃったり(笑)。それを整備員たちが一生懸命直して、その整備員たちでも手に負えなかったらメーカー修理だ……という描写が面白かったです。

▲劇場版2作目より。メーカーの工場で改装と整備を受けるイングラム。

――メディアミックスプロジェクトである『パトレイバー』シリーズは数多くの作品があるわけですが、初期OVAをご覧になられたのち、どのような順番で作品に触れられましたか?

小俣:実は私が初期OVAのVHSを手に取った時点でシリーズはすでにある程度展開されていたんです。だから初期OVAを観終えてすぐに続けてTVシリーズのVHSをレンタルし、漫画版の存在も知ってすぐに単行本も揃えてしまいました。漫画版はその後「少年サンデー」を定期購読して、連載も追いかけるようになりましたね。周りはマガジン派ばっかりだったんですが(笑)。そうして、満を持して劇場版を観るんです。本来のシリーズの展開順だと初期OVAの後に劇場版なんですが、私の場合はその前にTVシリーズを観ていたので……「絵がぜんぜん違う!」と、そこでちょっと驚いてしまいました(笑)。漫画版を読んだ時も「香貫花がいない!」ってびっくりしたんですけど(笑)。ただやっぱり劇場版の第1作はとても衝撃的でしたね。まだ“パソコン通信”とかそんな言葉しかなかった時代にコンピューターウイルスというテーマを扱った先見性に痺れました。OSにウイルスを仕掛け、インフラとして街中にある機械を暴走させてしまう……自動運転技術などが登場し、車のコンピュータ化が進行しつつある今観直すと、より一層恐ろしさが身に染みます。

――小俣さんは当時すでにコンピュータ、パソコンなどには触れられていたのでしょうか?

小俣:小学生の頃に、ホビーパソコンのMSX(※1)で遊んでいました。その後もPC-9800シリーズ(※2)などにも触れていたので、コンピュータというものにはかなり親しんでいたと思います。色々なアニメを観てましたけど、あの当時でこれだけコンピューターをリアルに描いた作品というのは、他になかったと思いますね。もちろん映像表現も面白かったですよね。BABELの文字列がモニターに点滅して、遊馬の顔に反射する場面は特に印象に残っています。映画の見せ場である方舟に第2小隊が行く前で、もう面白さに満足してしまうくらいでした(笑)。それから劇場版2作目も観たんですが、最初に観た時は「レイバーが出てこないな」と思ってしまいました。ただ、その後観直すと、実は「パトレイバー」の世界観が一番色濃く出た作品だと思い直しました。空自のバッジシステムがハッキングされるシーンもとても緊迫感がありますしね。レイバーが活躍するシーンも好きなんですけど、やっぱり『パトレイバー』はキャラクターも魅力的ですよね。後藤隊長の部下のあしらい方なんて、自分が部下を持つ立場になると「なるほどなぁ」と思いますね(笑)。「だから、遅すぎたと言っているんだ!」と後藤隊長が叫ぶ場面は、中間管理職を経験すると、すごく共感してしまいます。
 


◆技術者から見た「正しいレイバーの使い方」

――――小俣さんが重機やロボット開発の分野に進むことを決められたのはいつ頃ですか?

小俣:やっぱり機械が好きだったので機械系、工学系の道に進んでロボットや重機の勉強をするんだ、ということは高校生の時にはもう決めていました。いずれは重機メーカーに就職するんだろうなということも、漠然と考えていましたね。ちょうどそのタイミングで、油圧ショベルとロボット――自分が進もうとする道と、好きなロボットアニメというものを繋いでくれたという点で、自分の進路選択を後押ししてくれた作品と言えると思います。

――日立建機へはどういった経緯で入社されたのでしょうか?

小俣:日立建機には新卒で入社しました。入社面接で面接官に「普通の穴掘り機はやりたくない」と言い放つ生意気な学生で(笑)。それにも関わらず、無事入社することができ、しかも志望通りに応用製品の開発・設計をする部署に配属されたんです。

――それが、アスタコの開発につながっていくんですね。

小俣:といっても、そこからいきなりASTACO(アスタコ)を作れた訳ではありません。地道に色々な機械の設計をしていました。ASTACOも、元々は「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」内の実物大ガンダム「GUNDAM-DOCK(G-DOCK)」のテクニカル・ディレクターを務めている石井啓範さん(※3)が始めたプロジェクトでした。彼が初代ASTACOを完成させたのち、プロジェクトから離れてしまうんですが、ちょうどその時に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)(※4)が主導する「特殊環境ロボット分野・建設系産業廃棄物処理ロボットシステム」の開発プロジェクトに参加することになったんです。そこで私にお鉢が回ってきて、後継機である「ASTACO NEO(アスタコ ネオ)」が生まれました。でもまさかASTACO NEOの発表直後に東日本大震災が起き、さらに被災地に持っていくことになるとは、まったく想像していませんでしたね。

▲宮城県南三陸町で活動するASTACO NEO」。東日本大震災が発生する5日前の2011年3月6日に公開された。震災発生2か月後に被災地に投入され、瓦礫の除去作業に威力を発揮。防衛省にも納入されている。

――解体用の重機でいうと、劇場版1作目にレイバーによる廃屋解体の場面が存在しますが、技術者の視点であの場面はどう見られますか?

小俣:学生の時はあまり気にしなかったですけど、今観直すとあの解体の仕方はちょっと乱暴ですね(笑)。実際の解体の作業って、かなり繊細な作業なんですよ。むしろ冒頭の、方舟の上を野明と遊馬がヘリで飛んでる場面で描写される、繊細に鉄骨を掴む姿の方がレイバーの正しい運用と言えるのではないでしょうか。鉄骨を安定してつかんで、センチ単位で固定するような作業にこそ、二本腕は役に立ちますので。

▲劇場版1作目に登場する、レイバーによる廃屋の解体。かなり豪快な解体をしている。

――特殊作業用の重機を設計・開発されるというお仕事の中で、『パトレイバー』から影響された、インスパイアされたことなどはありますか?

小俣:実は設計・開発においては私はどちらかというと現実主義なんです。前述した石井さんは、操縦席の扉を正面に付けたがるんですが(笑)、私は「上に開いた扉が落ちてくると危ないのでやめよう」と考えてしまうんです。『パトレイバー』からの影響があるとしたら、テクニカルな面よりも、チームのマネジメントの方が大きいかもしれません。自分だけではできないことを他のスタッフと共有して、みんなで同じ方向へ進んでいく。一人ひとりが天才でなくても、みんなでやれば実現できる。若い人が好きに動けるように自分ができる限り裏で手を回す……後藤隊長や、時には内海課長の立ち回りも大いに参考にしています。

――最後にパトレイバー塾「本気で作るパトレイバー」での講義内容について、簡単に概略を教えて下さい。

小俣:「正しいレイバーの使い方」をテーマに、レイバーが実在していたらどのような運用が想定されるかを考察していきます。例えばレイバーの規格についてなどです。現実の油圧ショベルは、重さだけでも800キロから800トンまで多くのバリエーションが存在します。レイバーも作業によって、大型・中型・小型といった分類があってもいいのではないかと思います。また大きさだけでなく、操縦方法についても、遠隔操縦型や自律型といった分類が考えられます。現実の土木建築の分野で、どのような規格のレイバーが、どのように協調するべきか――それから逆算して、現実の重機がどのような作業を行えるようになれば胸を張って「レイバー」を名乗れるのか。そういった内容を解説したいと思っています。


 
 
※1 MSX
1983年にマイクロソフト社とアスキー社(現: アスキー・メディアワークス)が提唱したパソコンの統一規格。ソニーや東芝などから、ハードウェアが発売され、特に安価なホビー用パソコンとして人気を集めた。

※2 PC-9800
1982年にNECから発売された16ビットパソコンおよびそのシリーズ名。家庭向け本格PCの先駆けであり、1990年頃まで日本のパソコン業界で圧倒的なシェアを誇っていた。

※3 石井啓範
1999年に日立建機に入社し、双腕仕様機「ASTACO」の開発に携わる。2018年に同社を退職し、「ガンダム GLOBAL CHALLENGE(GGC)」にテクニカルディレクターとして参加。

※4 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
経済産業省が所管する、日本のエネルギー・環境分野と産業技術の開発の推進・支援を担う国立研究開発法人。持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進や、イノベーション創出を目的に、 リスクが高い革新的な技術の開発や実証を行う。

 
プロフィール
 

小俣 貴之(おまた たかゆき)
日立建機株式会社 ブランド・コミュニケーション本部 広報・IR部 担当部長。高校時代に「機動警察パトレイバー」のリアルな世界観を知り、「特殊な建設機械を設計したい」と思うようになる。1997年、日立建機に入社し、油圧ショベルをベースにした応用製品の設計業務を行う。その後「ASTACO NEO」を含む双腕機シリーズの開発・設計、商品企画、ICT施工の普及業務などに携わる。現在は広報担当として経営・事業に関する情報のほか、建設機械の魅力についても発信している。
 
アニメ × 都市論 【パトレイバー塾】 第3回「正しいレイバーの使い方」
 
2022年4月9日(土)15時より生配信 また講義は4月23日まで、アーカイブ配信予定
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